歴史の闇から、新50ポンド札の顔へ!アラン・チューリング
『イミテーション・ゲーム/エニグマと天才数学者の秘密』(原題’The Imitation Game´)は、2014年公開の映画です。
第二次大戦中にドイツの暗号機エニグマを解読した天才数学者、アラン・チューリングの実話を元に作られました。
チューリングの偉業は政府の以降、そして理不尽すぎる弾劾によって秘匿され、名誉を汚されてきました。
しかし、没後55年が経過した2009年、ゴードン・ブラウンが首相だった時に女王の名で恩赦が与えられます。
そして2019年、次の50ポンド札の顔として、スティーブン・ホーキンスなど錚々たる候補者たちの中からチューリングが選ばれたと発表されました(ホーキンスはこの先いつか、お札の顔に選ばれそうですね!)。
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心身・名誉ともに国によって辱められた天才が、遂に最大限の感謝と名誉を受けるに至ったと言えるでしょう。
なお、新しい50ポンド札は2021年終わり頃に出回り始める予定だそうです。
新£50札のデザインを発表したバンク・オブ・イングランドの公式サイト
ベネディクト・カンバーバッチがハマリ過ぎ!
チューリングの名前や偉業について、日本ではあまり知られていないかもしれません。
そんな彼について語る前に、まずはキャストのご紹介。
チューリングを演じるのは、英国ドラマ『シャーロック』や、マーベルの映画『ドクター・ストレンジ』でお馴染みのベネディクト・カンバーバッチ(Benedict Cumberbatch)!
名作を大胆に現代劇にアレンジした『シャーロック』でのホームズ役も、凡人離れした天才の演技がぴったりとハマっていた彼。
チューリング役も、この人以外考えられないハマりっぷりです!
下記の予告動画で、その片鱗をご覧ください。
予告の動画はこちら
あらすじ&物語の背景をざっくり解説!
アラン・チューリングって、どんな人だったの?
チューリングは20世紀を代表する数学者であり、暗号解読者であり、コンピューター・サイエンスのパイオニアでした。
モダン・コンピューターの基礎を作った彼が開発を目指した’思考する機械´は、現在ではAIとして発達しています。
1912年、ロンドンで誕生したチューリングは幼少期から天才ぶりを発揮し、成長するにすれ数学と科学の分野で頭角を表し始めました。
ケンブリッジ大を優れた成績で卒業した後も研究を続け、アメリカのプリンストンで博士号を取得。
その後イギリスに戻った彼は、第二次大戦中の祖国で重大な任務に着きます。
しかし、天才ならではというべきか、性格には難があったチューリング。上司や同僚にずけずけ物を言ったり、自分より能力の劣る人への対応が容赦なかったりと、協調性に欠けていました。
その事ともう一つ、彼はある点でマイノリティであった事が、後々さまざまな問題を引き起こすことになります。
エニグマを解読せよ!国の命運をかけたプロジェクトとは?
当時、ヨーロッパを席巻していたドイツ軍。
彼らの使用していた暗号機’エニグマ´で作られた暗号は非常に難解で、ポーランドやフランス、イギリスなど各国の数学者や科学者が解読に取り組んでいました。
エニグマの機械自体は多数作成され、基地や船、Uボートなどに積まれていたため、敵艦を捕獲した際などに入手して研究を続けていたようですね。
下の写真にある機械がその中の1台です。これはロンドンのChurchill War Rooms(チャーチル・ウォールームズ博物館)で撮ってきました。
実際に現物を見た感じではごついタイプライターのようにしか見えず、表示がなければ、これがかの有名なエニグマとは気づかなかったと思います…(;´∀`)。
チューリングが暗号解読のために通った勤務先は、ブレッチリー・パーク (Bletchley Park) 。
ちなみに今もミルトン・ケインズ(Milton Keynes)に残っており、博物館として公開されています。
国中から優秀な人が集められた一大プロジェクトでしたが、事が事だけにその内容は秘匿され、働いている人たちは家族にも言えませんでした。
国中から優秀な人間を集めたかったチューリングですが、堂々と広告は打てません。そこで、新聞に難解なクロスワードパズルを載せ、それを解いた人間を集めて試験するという手を打ちました。
そこで合格した中の1人が、キーラ・ナイトレイ演ずるジョーン・クラーク。
ジョーンは偏屈なチューリングの性格にも理解を示し、2人は親しくなります。
この時代、生きづらいタイプであったチューリング
チューリングは遂にジョーンと婚約します。しかし、結婚には重大な障害がありました。
彼は、男性しか愛せないタイプだったのです。
今では考えられない話ですが、当時はそれが法律に違反する重罪でした。
そのため、チューリングもそれをひた隠しにしていますが、耐えきれず、ある日彼女にカミングアウトします。
ジョーンは「それでも構わない」と言ってくれましたが、結局、婚約は解消することに…。
しかし、その後も2人の友情はずっと続いていきます。
実際のジョーンも数学の天才であり、トップの成績を収めながら女性であるがためにケンブリッジで学位が取れないなど、理不尽な扱いを受けていたそうです。
思うに、この2人は自分には罪のない事で差別される、その苦しみを分かりあえる同士だったのではないでしょうか。
だから、チューリングが亡くなるまで、男女の垣根を越えて絆がつながっていたのではないかと思います。
闇に葬られた歴史の真実。イギリス国家の秘密
チューリングが開発した機械は、なかなかめぼしい効果をあげません。
おまけにチューリングはソ連のスパイの疑いをかけられるなど(本物のスパイは別にいるのですが!)、困難の連続。
業を煮やした上司は、チューリングが気に入らないこともあり、開発を中止させようとします。
しかし、この機械とチューリングの頭脳を信じる仲間達の協力、そしてちょっとしたヒントを得て、遂に暗号解読に成功するのです!
狂喜する仲間たち。早速、ドイツ軍の次の攻撃予定を伝えて阻止しようとします。
折しも同僚の1人の兄弟が参加しているエリアの作戦でした。急げば、彼を含む大勢の命が助けられます。
ところが肝心のチューリングが、それを押し留めます。
無闇に動けば、暗号が解読されたことをドイツ軍に知られてしまう。そうしたら暗号の構成や配置を変えられ、解読はまた一からやり直しになります。
ドイツ軍に勝利するためには、戦略的に情報を選別して利用することが必要なのです。
つまり、事前に阻止できる攻撃であっても、毎回は対処しない。それは前線の兵士達の命を、戦略のために時に犠牲にするということ。
実際の調整は諜報機関のMI6に任せるとしても、暗号解読者たちにとって苦渋の選択でした。
結果として、暗号解読成功と、この作戦が功を奏して第二次大戦の終了が早まったと言われていますが、これは国家としても非難を免れない面があります。
そのため、戦後もブレッチリー・パークでの活動は秘密とされ、チューリングらの功績が日の目を見るまでには長い時間がかかりました。
エニグマ解読の喜びの後に…
本来なら、終戦の立役者として栄誉に浴するはずだったチューリング。
しかし彼は、性的マイノリティであることが当局に知られ、無理な投薬による「治療」を施されてしまいます。
それによってすっかり心身の健康を害した彼は、1人で寂しく余生を過ごします。
映画では、最後にジョーンが訪れ、暖かくケアしてくれるのが救いです。
しかし結局、彼は若干41歳の若さでこの世を去りました。
稀代の天才の数奇な一生を辿る『イミテーション・ゲーム』は必見!
チューリングが亡くなった後も、各国の数学者・科学者たちが彼の業績を評価してきました。
そして1974年、ブレッチリー・パークでの活動が暴かれた本が出版され、遂に研究者たちの功績が世に知られることになったのです。
天才チューリングの成し遂げたことは、イギリスのみならず世界中から称賛を浴びました。
しかしこの映画は、決して幸せとは言い難かったチューリングの一生を思い、せつない気持ちにさせられます…。
イギリスにも、法律でこんなひどい差別をする時代があったという事実に直面し、チューリング以外の、大勢の虐げられた人々にも思いを馳せずにはいられません。
それでも、史実を元にしたこの映画は、イギリスに興味がある人なら一度は観ておきたい1本かと思います。
(ベネディクト・カンバーバッチのファンの方はもちろん必見です^^!)